季節のたより


新年 明けましておめでとうございます。いよいよ、2011年が始まりました。今年の”小麦粉業界”の一年を考えてみる時・・・
うどんの主原料ASW(オーストラリア産小麦)についてみれば、100年に一度という(西豪州のASW収穫地域に限って)干ばつの影響によって、小麦品質の変動の影響が出てくる可能性があります。

私は去年11月にオーストラリア現地に飛び、現場の畑を廻り、小麦生産者にいろいろ話を聞き、意見交換もさせて頂きました。その中で、日本向けのASWに関して、ここ数年で新しく起きている問題・課題も認識しましたが、何よりASWも含めて輸入小麦について、「供給量」と「品質」について別々に考えるものではない、ということを改めて実感しました。

【2010.11.11西オーストラリアにて〜収穫間近の小麦〜】

オーストラリア全体の小麦生産量は、約2250万トン、西豪州だけで約900万トンあり、日本向けの約82万トン程度であることから、数字の上では十分余裕があるように見えます。
しかし、うどん用の日本独自仕様の小麦の量を確保するには、特に今年度のように干ばつによって収穫が激減する特別な状況下では、今年度の輸入小麦の品質規格に、ある程度の幅を持たせる必要があり、どこまで日本が求める品質(国が定める品質規格、日本の麺加工業者が求める「製麺適性」、消費者が求める「食味・食感の質」)が満たせるのか、という課題が生まれます。

ここに、輸入小麦に対する「日本独自の品質仕様」という姿が浮かび上がってきます。日本が求める(世界標準からみると許容幅の狭い=より厳格な)品質を供給側がどこまで対応するのか、あるいは今後対応を維持できるのか、あるいは小麦供給側と輸入側が折り合える条件を見つけていく関係を今後どう作ってくのかという問題を、今回の干ばつの一件が浮き立たせていると見ることができます。

更に言うと、「”品質”と”量”の両方の確保」を求めるならば、それに見合うコスト(小麦生産者にとっては”プレミア”)が必要です。たとえば、今まで日本とオーストラリアの国レベルで行われてきた小麦売買が、民間に移行している現在、その品質問題を今後どのように扱っていくのか、という問題があります。このことは、今後の日本向け小麦の供給量とも密接な関係を持ってきます。
民間の売買においては、”特別な仕様”の保証、小麦品種による収量の低さのカバーは当然、生産者にとっては重大な関心事であり、彼らはそれを「リスク」と捉えるのはある意味で当然と言えるでしょう。

日本人は、食品の原材料にとても細かで厳密な品質を求めるし、それが繊細な「日本の食」を形作っているのは確かです。これは日本の食文化の維持、食品産業のレベルの高さを維持する、という意味においても重要なことです。そのために、日本は今まで小麦の品質においても、世界標準からみて、より厳しい規格を必要とし、要求してきましたし、それが可能な小麦輸出国との取引環境もありました。

しかし、ASWに関してみれば、新興国の経済発展に伴い、オーストラリア産小麦の新しい市場が生まれてきている現況下、日本が従来と同じように厳密な規格の小麦を必要なだけ、確実に入手できるということは(今回の干ばつという特殊な状況を除いても)、今後難しくなる可能性が高くなると思います。
又、オーストラリアの小麦生産者の目が新しい市場のアジアや中近東に向き、従来の日本に向けられていた生産意欲が変化してくるのは必然と言えるでしょう。

米国から日本向けの小麦についても、同じ輸出施設からの膨大な量の中国への大豆輸出量、アジアへの穀物輸出量の増加によるラッシュの影響で、より大きなロットでのタンカー運送、より幅の広い小麦規格が必要とされることが予想されます。

気になるのは、最近話題に上がるTPPも含めて、FTA、EPAも、貿易量(数量と金額)は数字として表されるものの、日本という、「食」も含めて「独特の文化」を持つ、世界的にみて異質な、言い方を変えれば「日本固有の質の維持や発展」についてが議論の中に見つからないところです。

グロ−バル経済下で世界標準を目指すことは、貿易ルール上、必要なことではありますが、それと同時に「日本の独自性の維持と発展」も目指すことが、今後の日本の強さにつながると思うのです。
文化や産業の「質の価値」を持たない国は、いろいろな分野におけるパワーで生きるしかないのですが、それが日本の生き方としてどうなのでしょう。

今年は、新興国の経済成長に伴う世界経済の構造変化の影響を受けて、日本の小麦輸入(調達)も、従来とは違う新しいステージに移っていく、ターニング・ポイントの一年になるのかもしれません。


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