季節のたより

1週間をかけて、中国内陸の麺をいろいろ食べてきました。廻ってきたのは、敦煌、蘭州、西安、上海。
シルクロードの北ルートに沿った麺ロードと言えるでしょう。上海も、淅江省近辺としてそのルートに入ると言えるかも。以下の写真は敦煌の麺です。




思ったより、この麺は太く、半田そうめんのようでした。ただ、中国では、いろいろな太さの麺があり、今回の麺探訪では、平麺(名古屋のきしめん状)、日本の中華麺と同様の2種がよくでてきました。

拉麺(りゅうめん)とは、小麦粉生地を伸ばして麺にするもので、製法としては両手で生地をグルグル振り回しながら、手指を使って見事に細く伸ばしていきます。おしぼり状の太い枝のような小麦粉生地が、以下のようにみるみる細い麺になっていくのだから驚き。
お見事!!(拍手)



このように、振ることで伸びていく小麦粉生地は、伸びやすい柔らかさになるよう作っています。さぬきうどんの生地の「硬さ」ではとても伸びません。うどんは生地をf踏んだり揉んだりして外力で圧してから切り落とすもので、伸ばしていく拉麺(りゅうめん)とは、根本的に製法(練り)も、当然ながらそれに合う小麦粉の特性も違ってきますよね。 ^.^

拉麺(りゅうめん)は、手延そうめんとよく似た製法と言えます。でも、やはり日本の手延そうめんの方が生地は相当硬いです。現在の手延そうめんの原料小麦は、ほとんどが輸入小麦(ASW+強力小麦)なので、硬いのは当然といえますが、糸のように細く伸びるように塩水・加水量の加減をしているとも言えます。

さて、この敦煌で食べた麺は、やはり柔らかい。私たち日本人が思っている「中華麺」とはかなり違って、柔らかい食感です。言ってみれば、ブヨブヨした食感。
麺の色合いからみても、小麦粉はおそらく中国の小麦(中力系)と思われます。
しかし、これだけ小麦粉生地を振って作っても。切れずに細くなるのだから、日本の同じ中力系小麦とは質が違うのでは??

(答えは、下の「日本の小麦は、いったいどこから来たのでしょう?」を呼んでみてねー。^.^)

スープもビーフ味のような薄めな味付けで、あっさりした味です。
今回の中国の麺探訪では、敦煌、蘭州、西安どこでも、同じような傾向の麺でした。かん水も入っているのかどうか.....多分、今回の麺にはどこも入っていなかったのでは、と思います。麺内のかん水によって、実はスープも独特の香りと味が出て、グッと美味しさが増すのですが.....


【蘭州の人気店の牛肉麺(細麺)】

【蘭州の人気店の牛肉麺(平麺)】

【西安の拉麺(りゅうめん)】


ラーメンとか中華麺というと、日本人にとっては単体の麺メニューで、それで一食終わりという感じですが、中国の料理では、次々出てくるメニューの中のひとつ、という位置づけが普通です。一品として出す専門店や屋台もありますが、それはまた改めて。

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【日本の小麦は、いったいどこから来たのでしょう。】

その答えは・・・最近の研究、小麦のたん白質の遺伝子の地理的分布から、アフガニスタン小麦が、日本の小麦の先祖(始祖品種)である可能性がかなり高くなってきています。昔からアフガニスタンは、ヨーロッパとアジアとのシルクロードの中継地として栄えたことは有名です。
(注(1) シルクロードとは、紀元前2世紀 中国・漢の時代に開かれた交易路。
 (2) 小麦は7000年前には中近東地域に存在していて、その起源は、カスピ海西岸地域と言われています。
 現・トルコのアナトリア地方という説もあります。)

最近の研究で、日本への小麦伝播ルートは......
【中近東(普通系小麦の起源地)】 ⇒ 【アフガニスタン】 ⇒ 【新疆ウィグル自地区】 ⇒ 【西安】 ...
...西安から、以下の2ルートの説があります。

【西安】 ⇒ 南京・淅江(せっこう)省 ⇒ (日本)九州 ⇒ 北日本
【西安】 ⇒ 北京 ⇒ 朝鮮半島 ⇒ 日本

さて、日本の小麦の品質は、外国産とは大きく異なります。日本の小麦は、中国からやってき来た!のに、実はその中国の小麦とは品質が大きく違っています。

なぜなのか?
一言で言うと、中国においても珍しく、また世界的にみても稀(まれ)な遺伝子・・・
「小麦粉生地の物性を弱くするたん白質遺伝子」
・・・を持つ限られた品種が(2000年ほど前か?日本への小麦伝播の時期の記録はないのです。)、たまたま中国から伝来し、日本の小麦の祖先となったため、特性が定着したということ。この稀(まれ)にみる品種が日本に伝わってきたのは、本当に偶然であったと考えられています。
そして伝来後、この遺伝子を持つ小麦品種が日本の気候環境に適応して定着した、というものです。

それを証明する根拠として、中国に現在ある約350種の普通系小麦のうち、この遺伝子を持っている小麦品種は2%程度しかないのに比べ、日本の小麦は50%弱存在するという研究報告がされています。
そして、その遺伝子のアジアにおける分布を調べると、前記のアフガニスタンから西安、そこから北京と南京・淅江(せっこう)省の麺ロードとほぼ一致したという研究報告がされています。

さて!!
今回私が敦煌や蘭州、西安で食べた拉麺(りゅうめん)の原料小麦は、同じ中力系でも、日本小麦のように「グルテンの物性を弱くする遺伝子」と持たない小麦だろうと思います。つまり、日本の小麦とは大きく異なる「たん白遺伝子を持つ小麦」の麺。
だからこそ、空中で小麦粉生地を振り回しても、グルテン質が強いため切れないのだろう、と器用に伸ばされる麺作りを目の前で見ながら、私は思いました。
日本の麺用小麦では、拉麺(りゅうめん)のような振り回す製法では空中で切れてしまうと思います。

そうなると、さぬきうどんのルーツは中国か、というと....ちょっと考えてしまいます。小麦の特性が大きく違うと、製法も全く異なるし。
でも、小麦はシルクロードに沿って、中国を経由して日本に伝播したものですし、小麦粉を麺にして食べるという食文化はおそらく中国から伝来したものでしょうから、食文化的には近いところにあると言えるでしょう。

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今回は、「中国の麺食べ歩記」から、小麦の話になりましたけど、敦煌から更に奥地のタクラマカン砂漠の「楼蘭(ろうらん)の美女」と言われるミイラが携えていた”小麦”.....黄河流域で小麦栽培が始まる1000年以上前の小麦の話も、また改めて書いてみたいと思います。


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