【8】穀物急騰の今、考えること
農林水産省がこの2008年3月に発表した「世界の穀物の需給見通し」によると、今後の需給状況の展望が見えてきます。「世界の穀物の消費量が生産量を上回る、タイトな需給状況が続いている」という事実。
世界の小麦需給を見ると、2005/06年から、小麦の消費量が生産量を上回り、期末在庫率は3年続けて減少を続けています。2007/08年の予測では、更に在庫率は減少する見込みです。
【4月12日 : さぬきの夢2000】
過去、単年度では消費量が生産量を上回る年もありましたが、翌年には在庫が増加するなど持ち直すバランスできたのですが、ここ3年は需給バランスの流れが変わってきているのです。 【世界の小麦の期末在庫の推移】 2004/05 期末在庫量 150.6 百万t (在庫率 24.7%)
2005/06 〃 147.6 百万t (在庫率 23.6%)
2006/07 〃 124.4 百万t (在庫率 20.2%)
2007/08(予測) 〃 110.9 百万t (在庫率 18.0%)
2007/08年度の消費量は、堅調な食用の需要はありますが、2006年秋頃からの小麦価格高騰によって飼料用需要が抑制されたため、去年度とほぼ同じの予想の616.5百万t。 生産量は米国、インド等で増加見込みで930万t程度増加して603.0百万t。 単年度でみて差し引き1350万tの不足となります。
世界の小麦市場では、自国の消費を優先するため輸出規制を始めている小麦輸出国があり、今後更なる需給の引き締まりが予想されます。この輸出規制がさらに市場の逼迫感をあおり、価格高騰へ引っ張るという悪循環にもなっているとみられます。
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現在、日本で余り気味で価格下落が問題視されている「米」はどうでしょう。
世界の米の生産量、消費量、輸出量は前年度並みの見込みではあるものの、小麦と同じように、消費量が生産量を上回る需給状態が続いています。2007/08単年では、消費量 423.7 百万tに対して、生産量は420.6百万tと310万tの不足となっています。
【世界の米の期末在庫の推移】
2004/05 期末在庫量 74.7 百万t (在庫率 18.3%)
2005/06 〃 76.9 百万t (在庫率 18.5%)
2006/07 〃 75.6 百万t (在庫率 18.0%)
2007/08(予測) 〃 72.5 百万t (在庫率 17.1%)
在庫率の減少率は、小麦ほどではないように見えますが、米の国際価格は急騰が止まらず、アジアでは、米価格の急上昇が深刻な問題となりつつあります。
国連食糧農業機関(FAO)の発表によると、今年に入ってわずか3ヶ月で、国際米価格指数は20%急上昇。標準的なタイ米は、昨年3月に比べ、68%の上昇となっています。この急上昇の理由として、国際市場への出回りが減少してきたこと、特に輸出国が導入した輸出規制の影響が大きいと分析しています。
フィリピンでは、毎年200万t近い米を輸入していますが、必要な輸入量が確保できない可能性が強まり、アロヨ大統領がベトナムに米の融通を依頼したことが先月報道されたばかりで、アジアで米の不足が懸念される地域があることが指摘され始めています。
世界銀行のロバート・ゼーリック総裁は、33の開発発展途上国で食品価格が高騰し、貧困層が食料危機に直面していると指摘、米国、EU、日本に食料支援資金への拠出を求めています。
英国のブラウン首相は、「食料危機問題について、国際的な協調行動が必要」と、G8に向けて議長国の日本に要請したことが先日報道されました。
在庫が減少しつつあるという状況は、大麦もトウモロコシも大豆にも傾向として見られます。
現在の穀物価格の高騰は、現物が不足しているということより、国際マネーの投機的動きや輸出国の輸出規制による出回り量の不足への、市場の危機感が主な要因になっていることが大きいのではないかと私は思います。
ただ、先ほどの世界の小麦と米の期末在庫の推移を見るとわかるように、確かに穀物全般に「在庫率減少」の方向へ流れは進んでおり、一時的には持ち直すものの、中・長期的には今後も消費量が生産量を上回るタイトな需給傾向は続くのではないでしょうか。
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私は製粉業者の立場として、この2年のオーストラリア産小麦の干ばつによって「小麦収穫量の不安定さ」を痛感しました。収穫地の気候状況によって、「近年にない豊作の予想」が「一挙に半減」して量の確保さえ危ぶまれる状況が「突然やってくる」ことを痛感しました。
たった2~3週間の間に降雨があるかないかによって、膨大な量の小麦の収穫が得られるか、失うかが厳然と決まるという事実も痛感しました。
でも、農産業は本来 そういうものだということを冷静に認識しなければなりません。今まで、本当に幸運なことに、他国における安定的な小麦生産の恩恵を受けられただけという見方もできます。
悲観的でも、情感的な意味合いでもなく、現実に私たち日本人は、それほど脆い(もろい)状態の上で生きる糧を得ているということなのです。
地元香川県の農業史を読んでみると、明治9年(1876年)~昭和48年(1973年)の100年の間に、20回の厳しい干ばつが記録されています。香川県は、日本でも降雨が少なく水不足になりやすい地域で、そのため昔からため池の数は多く、現在その数は約14,600箇所で兵庫県・広島県についで3位、ため池の数を県土面積で割った密度では全国1位です。
本来私たちも、天候頼みの農業生産の不安定さは身を持って知っていたはずなのですが、量が豊富で品質の良い小麦を潤沢に、遥か太平洋の彼方で買い付け好きなだけ入手できた時代の中で、その感覚を失いつつあることを私は製粉業者として自戒しています。
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今、日本では米余りによって価格下落が激しく、米作の作付面積の縮小を進めています。見方を変えれば、国際市場と連動していない日本国内だけの米の市場だから、世界の動向とは逆行した動きになるとも言えるでしょう。
世界的には中長期的に見て米の需給が厳しい状態となることはほぼ確実という見通しがあり、日本は穀物で唯一と言える100%の米の自給率を維持することは、今までと違った意味で重要な課題になっていくと思います。米の価格水準や国内在庫の余剰をどうするかという問題でなく、国の食料安全保障のカテゴリーとして考えられるようになるのではないでしょうか。
しかし、国内産小麦も米も産業として効率化され、自立した穀物生産でなければ、市場経済の世界では成り立たないのも事実。
まず補償ありき、という考え方だけでは持続的な農業経営は難しいでしょう。今起きている激しい世界的な構造変化を受けて、農業生産者側が、新しい経営スタイルに移れるかどうか。
それを導く、補助金や人為的な政府の介入ではなく、自立した穀物生産へ向かう整合性のある政策が打たれるかどうか。
去年4月に始まった担い手政策を手直しし、早く新しい日本独自の農産業経営スタイルが確立されることを願いたい。消費者(国民)のために。
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今後穀物を初めとする食糧は、今年1月の世界経済フォーラム報告にもあったように、今までに増して国の重要な戦略的物資として扱われるようになるでしょう。「食料(食糧)安全保障」は一国の政策の重要な柱になる。自国民の食料(食糧)を確保し続けることが、国として最も重要な政策の一つとなることは当然と言えるでしょう。国の基本は、エネルギー・食糧・軍事力なのですから。
自分が食べるものは、人任せでなく自分で確保する。自分で食料を作れないなら、確実に確保する方法を作り、実行する。この当たり前のことを日本人は改めて考え、自国の食料の方向性を自分で決めなければならない時に来ているのだと思います。
国内産小麦に目を向けると、農産業も製粉産業もそれぞれの立場から、従来と同じ主張の繰り返しだけでは、輸出国の輸出規制により国際市場への出回り量が少なくなり、価格も高止まりする可能性が高いこの新しい小麦市場環境の構造変化の中で、「国民の糧を支える産業」の正しい方向性を見出していくことは難しい。
農産業も製粉産業も同じく「国民の“食の基本”を担う産業」なら、消費者=国民の食生活の安定(供給量・安全性・価格)を基本において、国内産小麦の議論する必要があるでしょう。自由競争の経済概念との兼ね合いを見ながら。
これは「夢のような理想の話」ではなくて、それを時代が当産業に要求しているのです。そして、国の政策的な大きな判断も、ある時期には必要になってくるかもしれません。
食糧の基本は、まず必要量の確保。輸入小麦と国内産小麦の両面で考える必要があるのは当然。国内産小麦の生産コスト低減をどう進めるのか。そして、高騰する輸入小麦のコスト上昇。これらの食糧確保にかかるコストを、国内で誰がどのように負担するのか。今は、どの産業分野でもコスト増を誰がどのように負担するのかが重要なポイントとなってきています。食糧分野でも、新たな戦略的コンセプト確立や取り組みが急務となっているのではないでしょうか。
又、食の基礎分野を担う製粉業者は、原料小麦の世界的な動向を直接知る立場にある以上、自らが考える「今後の日本の食料・食品産業のあるべき姿」を取引先や一般の消費者の方にも広く提起して公開していく必要があるのではないでしょうか。そして、その考えに基づく製品開発が行われ、それが個々の製粉企業の経営の方向を明確にし、形作ることにもつながっていくと思うのです。
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さて、日本の食料の在り方として、極端な例ですが、シンガポールのように狭い国土を農業に利用するのではなく、工業・産業に活用し、90%以上の食料(重量ベース)を輸入に頼る生き方のように、外部依存型を選ぶのか。(但し、東京23区と同じ程度の国面積、448万人の人口のシンガポールと、日本は成り立ちが異なりますが。)あるいは、食料自給型へ向かうのか。あるいは、例えば海外の農場や生産地に投資する新しい方向性を取り入れていくのか。
吉原食糧は、まずは香川県産小麦「さぬきの夢2000」をうどん用の小麦としてだけでなく、将来の地域の穀物自給への貢献を目指して、消費者の皆さんに満足して消費して頂ける2次加工品開発などにより、小麦の需要を増やし、それに伴う生産量の持続的な拡大につなげていきたいと考えています。
「販売あるところにのみ、生産ありき」。まずは新しい時代には、必ず人知れず生まれているはずの「新しい価値観」と「使命(ミッション)」を求めて、地道に歩き始めることしかないと思うのです。