どうなる日本の食糧

オーストラリア産小麦の収穫160.jpg
オーストラリアでは、今年1~2月に西豪州・東豪州共にかなりの降雨がありました。
特に東豪州では、オーストラリア政府当局によると今年1月7日、同国東部沿岸を襲った豪雨により発生した洪水で、数千人が孤立していると発表しています。ニューサウスウェールズ(New South Wales)州北東部とクイーンズランド(Queensland)州南部では、4日間にわたって数千人が孤立していると報道されました。しかし....

.....3~4月は一転して、東豪州(ブリスベン周辺の中華麺用小麦「プライム・ハード」収穫地域)は降雨が少ない状況となっています。ただ、うどん用のオーストラリア産小麦(ASW)が収穫される西豪州地域には降雨があり、今のところ特に問題はないようです。懸念されるのは、今後適量な降雨があるかどうか、つまりASW収穫地域に雨が通過するかどうかによる....オーストラリア全体が干ばつということではなく、特定地域に極端に降雨が少なくなることが問題なのです。

私が、オーストラリアの西豪州のASW収穫地域を尋ねた2005年は豊作の年でした。その翌年から干ばつが2年続いてしまった。今年は、今から収穫の11月にかけてASW収穫地域へ適量な降雨があることを願いたいです。

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世界の穀物相場としては、トウモロコシの相場が予想より高めで推移し、1ブッシェル(25.401kg) 6$位から下がらない(近年の高騰前は2$程度だった)。6月5日付けのシカゴ商品取引所では、トウモロコシ相場において、指標となる2008年7月物が6.4325$と最高値を更新しました。これは、米国中西部産地で雨が続き、作付け直後の生育への懸念が高まっていることと、原油相場が急反発したことが要因と見られています。

大豆は高騰により10$に張り付いていて、下がる気配は今のところなし。小麦は若干値下げ傾向を一時的(?)に見せてはいるものの、トウモロコシ相場が高止まりしているため、それを乗り超えて下がる状況ではないという状況です。 今年の世界の小麦生産量は増産によって米国、EU共に最高の収穫量となる見込みで、世界の在庫増しにより多少は価格下落が予想されます。しかし、相場は今のところ高止まりするであろうという見方が強いです。

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最近、日本でも穀物や食料に対する危機感がだんだん高まってきて、新聞やTVなどメディアで取り上げられることが多くなりました。でも、まだそれほどの切迫感はなありません。食料が激減する!、日頃食べているものが手に入らなくなる!というところまではいてないからでしょう。そういう状態でないことは大変ありがたいことです。
農産物は、例外を除いて年に1回程度しか収穫できないものであり、1年という長い(現代の感覚では異様に長い)期間で回っていくサイクルですから、収穫量が少なければ1年間それなりに工夫しないといけない。2年続くと、持ち越し在庫が減るから、更にやりくりしないといけない。本来、人間はこうやって自然の恵みをありがたく、「命の糧」として大事にしてきたのでしょう。その畏怖や命に関わる貴重さへ気持ちが、宗教や文化の基礎の一角を成してきたのだろうと思います。

未来へ続く大地280.jpg

今から、更に高まるであろう日本での「食の自給」に対する議論は、 「日本の食品産業の歴史からみて食料自給には限界がある。その中でどう現実的な新しい道を見出すのか」...という方向になって欲しいと願います。
「相場が上がってきた。じゃあ、安いから、こっちを買えば良いじゃないか。自給率の向上にもなる。」とか「もっと補助金を国が出して作れば良い」というその場限りの議論だけで終わってはいけない。なぜなら、戦後の日本の農産業に関する議論は延々と2007年の今まで!!ほとんど「新しい方向性に踏み出せない、同じ議論の輪」を堂々巡りしているのですから。
最も大事なことは、日本の農業の足腰を更に強くすること。「【食料の確保】の方向性」は、結局国民が「方向性を選択する」以外にないのではないでしょうか。資源や食糧の少ない宿命を持っている日本では、国民それぞれが「将来を選択する」意思を持つ必要があるでしょう。特に、今からの時代は。

消費する側と、生産する側。両者がもっと”相手”と、”全体”の現実を見なければならないのでしょう。消費者には消費者の論理がある。生産者にも事情がある。両者の間に、本質的な理解や共感や”認め合える合理性”が必要でしょう。それがないと新しい道には進んでいけない。農産業に関する今までの長い長い議論とその結果を見ているとその感を強く持ちます。製粉業界も、更に努力するべき懸案事項は多いのです。

小麦加工の一業者として、安定的にいつでも入手できると思ってきた小麦(オーストラリア産)が最終の6週間にも降雨がなかったこと(根本的な要因は降雨が長期間にわたって極端に少なかったこと)で、膨大な量の収穫が激減したという現実を2年続いて見て、改めて日本の食糧の危うさ、その綱渡りのような恐ろしさを強く感じています。

今までは、「経済の成長」や「必要なものは海外からの購入」を考えれば良かった時代でした。私は、平成15年7月のプロジェクトXの番組のインタビューの時に、危うい日本の食糧調達への不安について話をしました。実際のところ、望む品質の小麦を、合格した品質のものだけ、好きな量、しかも大量に買える時代が恒久的に続くとは、とて思えなかったからです。 買えなくなる要因やリスクがたくさん潜んでいるように感じていたからです。

21世紀に入ってもうすぐ10年が来る現代では、「持続可能な経済成長」「持続可能な食糧確保」を考える時代になっています。この時代の変化を感じ取り、食糧確保と農業のあり方を新たに作り上げる「時代認識」と「実行力」の2つが不可欠です。その力を誰に求める?国や地方の指導者?官僚?民?

まず、国民の皆さんが「食料」に関する自分なりの考えを持つことが必要だと思います。そして、そのためには国民の皆さんが”自分”の考えを持つのに必要な情報をもっと広く正しく伝えることが必要になってきているのだと思います。

日本は今まで、食の現場から遠ざかりすぎていたのかもしれません。
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さて、2008年5月29日、FAO(国連食糧農業機関)と、OECD(経済開発協力機構)が、2017年までの世界の農業予測を発表しました。高騰する食料価格は徐々に下落に向かうが、高騰前の水準まで戻らず、今後10年間は高止まりが続くと予測した報告書「2008-17年農業見通しという内容です。これについては後日報告したいと思います。

さぬきの夢2000は、5月末のほぼ収穫を終えました。作柄はよく、単収辺りの収穫量も高く、収穫予想を上回りそうです。


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