季節のたより

2年前の2013年4月、ニューヨークの食の市場を見て歩きました。

その時のメモを読み振り返ってみると、ニューヨークは今の日本の食市場を先読みしたような動きが既にあり、まさにタイムカプセル的で面白かったので少し書いてみます。

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例えば、$10クラスのこだわりのデラックスバーガー、赤身肉(アンガス牛、ドライエージング)、カット野菜の売り場拡大など。  

2年前、ニューヨークを見て、そして食べて回ったのは、注目のレストランとファストフード、小売業。
食市場の志向は予想に反してアバンギャルド(進歩的、前衛的)どころか、むしろ日常的、理性的感覚でした。
意外にも、ローカル性(地方の価値)の尊重や、自然派とも言える志向だったのです。


NYの食市場で、私が感じた(驚き、予想、疑問)ポイントは4つ。・・・・

1.デラックス・バーガーは日本・東京へ上陸するだろう
2.~赤身肉(アンガスビーフ)の食味・食感~ 日本人の肉質の嗜好は変わるのでは?
3.日本でもポーションのカット野菜は、今後、相当普及するだろう
4.小売業コンセプト(ローカルの価値、自然派、そして客と共に作るエキサイティングな売り場)は 日本に根付くだろうか?


違った角度から、自分なりにキーワードを挙げてみると、以下の4つです。
1.Scratch
2.Beans to bar
3.Just enough
4.Together、 Care、 Earthbound、Nature  

1.Scratch(スクラッチ) ・・・ 新鮮さと素材の味を活かす、素材から手作りの調理。  

~ (例) デラックスバーガー : Shake Shack(シェイク・シャック)   Five Napkin Burger(ファイブ・ナプキン・バーガー)  

まず、マンハッタンで印象的だったデラックス・バーガー、Shake Shack(シェイク・シャック)。  
2004年にスーパー・セレブ・レストラン・オーナーのダニー・メイヤー氏がオープンした、今やニューヨーカーに カルト的な人気を持つハンバーガー・ブランドです。

以下は、マジソン・スクエア・パークの敷地内のShake Shack。日が落ち、4月初旬とはいえ、冷える夜の公園で (といっても周囲はビル街ですが)、若いニューヨーカー達が列をなしていました。


(↑ 狭い厨房で、パテを手作り。大忙しです)

(↑ 中央の女性がリーダー。テキパキを指示を出していました。)


どちらも$9~10位で、日本のハンバーガー感覚からいくと高価に感じますが、 ニューヨークでは圧倒的な人気です。
日本の食品価格は、一般的に米国やオーストラリアに比べるとかなり安いですね。

右のFive napkin burgerは、グリュイエールチーズと、炒めたオニオンの組み合せが大ヒット。
米国・ニューヨークで人気のこのような新コンセプトのバーガーが今後、日本・東京でどのように 人気を得るのか、楽しみです。

ここ数年、日本の外食の中で、消費者から見たハンバーガーや牛丼をはじめとするファストフードの 位置づけ、捉え方が大きく変化してきているように感じていて、実はさぬきうどん業態も、同じ土俵に 入ってきているように思います。

広義で見れば、バーガー、丼、麺類、ステーキ、イタリアン・フランス料理などがシャッフル状態で それこそシェイクされていて、根本的な業態コンセプトからして試行錯誤が続いている感があります。

外食は、経済と世相を反映しますから、現在の「日本経済(例えば所得動向、ムード(気分))の変化」を 反映して、「世代特有の消費嗜好」や「食の嗜好と価値観」が渦を巻いて、混沌としながら新しい場所へ 向かっているように思えるのです。


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以下は、ロックフェラー家も購入しているという、ニューヨークでも有名な精肉店です。

アンガス牛のドライエージングの肉で、左側の写真は2週間熟成したもの。カビのようなものが 表面に付いています。
右は、今から熟成に入る肉。脂肪が多いように見えますが、これは熟成期間 (3週間程度)の間に変質し、最終的には取り除けられます。



以下は、ニューヨークの人気ステーキ店:Del Friscoでの、ドライエージング肉のステーキです。



アンガス牛のドライエージング肉を食べ、霜降り肉とは大きく異なる赤身肉の適度な噛みごたえと 肉の風味の良さを実感。

「日本でも、いずれこの赤身肉が普通になる時代が来るのか。」と思ってはいましたが、その後、日本でも いきなり!ステーキ」店の大人気など、一気に盛り上がってきた感があります(アメリカの赤身肉とは少し異なりますが、赤身中心の肉質という意味で)。

最近の赤身肉の人気の要因は、炭水化物ダイエットの影響で、肉類を食べる流れが強まったこと、 女性や高齢の方が肉をたくさん食べるようになってきていること、赤身肉には、エルカルチニンや 美容に良いと言われているビタミンBや、鉄分が豊富で、体に良いと言う認識が広まってきている こと等があるようです。

やはり、アメリカの流行は、日本に遅れてやってくるものなのか?

実際は、日本の外食や流通の企業が、米国をリサーチして、参考にしていることがあるでしょう。

但し、物理的、システム的な模倣はともかく、最近の消費者は、モノ以外にポリシーや気分、こだわりを持って消費すること自体に価値を感じるなど、理性的、或いは情感的な価値も商品に 求めるので、ニューヨークと東京は案外、近い感覚を持った市場なのかもしれません。

本来、フラット化(グローバル化)広域経済とは、そういうものかも。


2.Beans to bar(ビーンズ トユー バー) ・・・ 店内の工房や売り場の空間も使って、素材(カカオ豆)から

チョコまで完成させるという、まさに、目の前で作るエキサイトな雰囲気と、強烈なPR力。
~ Max Brenner Chocolate Culture

以下は、店内を這うチョコレートを送る配管。まさに Beans to bar.



⇒ 上記1.と2,の人気の要因は、ブランド・コンセプトとして、素材から作り始め、新鮮な状態で提供すること。

ハンバーガーの場合、食材は冷凍せず、オーダーを受けてから作ります。 シェイクシャックは、USAアンガス牛のみ使用、ホルモン剤・抗生物質を未使用、餌は穀物のみ、成形肉 は使用しない、などを店舗で明示しています。

これらは、「素材を大事に、手作りの美味しさを追求」という外食の原点回帰のような現象ともいえるのでは。

それに、ブランド作りが上手い。明確なコンセプトを明瞭に消費者にぶつける、といった感じ。

やはりアメリカは買い手の欲求の高さ(demanding)、作り手のPRもダイナミックです。


3.Just enough  

⇒ 過度を避け、丁度良いくらいの充足感。

これは、マンハッタンにあるスーパーのポリシーの一つの表現でしたが、「節制」をも感じさせる意識に  正直、意外に感じました。ニューヨークでは、もっとワイルドで大量消費が普通と思っていましたから。

4.together(共に)、 care(配慮)、 earthbound(土に根差して)、nature(自然志向)

⇒ クール、理性的な消費。
スーパー各社の売り場に掲げている表現で印象的だったもの、よく見かけた単語4つ。

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マンハッタンにあるスーパー店舗に印象的なコンセプトを掲示していました。

・Don't waste it  無駄をやめよう。
・Buy it with thoughts  よく考えて(思慮の上で)買おう。
・Cook it with care  配慮しながら(健康や環境に)調理しよう。
・Use less wheat and meat 小麦や肉はできるだけ少なく使おう=野菜中心
・Buy local foods  地域の食物を買おう
・Serve just enough  ちょうど良い程度の(過剰でない)サービスを
・Use what is left 残り物を使おう


「小麦をできるだけ少なく」というのは、製粉会社としては辛いものがありますが(笑)、節制を尊ぶ生活スタイルを志向する考え方の表れかなと思います。

又、NYのいわゆるスーパーの繁盛店では、野菜そのもの(ホール野菜)の販売ブースが狭くなり、カット野菜のエリアがどんどん拡大していました。(Fairway、Whole Foods、Eli's etc)



以下は、チョップド・サラダ。野菜を選べば、ケッパー状のカッターで手で細かくしてくれる。ずらりと並ぶ豊富な トッピングやドレッシングが壮観。価格は、組合わせによもよりますが、$8~$12位。



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さて、今まで書いてきたことは、ニューヨーク、マンハッタンの小売業の一側面かもしれませんが、 自然志向、健康を意識、理性的消費というコンセプトは、流通にも飲食にも共通していると思いました。

2年前のニューヨーク食市場を回って感じたことは、理性的な消費への意識が高かったということ。
もちろん、「安さ」をセールスポイントに置く業態はありますが、それとは別に、環境に配慮し、健康志向で、無駄のない賢い消費への志向を強く感じたのです。

大作りな役割(大量生産・大量消費)から、理性的な消費へ。

新たな"消費嗜好"の存在を感じました。

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米国では、客が"エキサイティング"を求めるといいます。
供給側は、それに対していかに客の中に入り込んで最適なサービスをするかを競う。
オリジナルな自分の考えやアイデアを、その表現に趣向を凝らして消費者にぶつける。
それを消費者は楽しんで選んでいく。

人気の高い、ある流通・小売企業は、例えば素材からの調理を見せ、多くの種類の出来立ての料理を並べて、その匂いや視覚、雰囲気で魅了する大規模なDeliを設けたり、どんどんお客の中に入り込んで、にぎわいを醸成し、"エキサイティング・ムード"を作り出していました。



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一方、IT指向のスーパーもありました。

ハンドヘルドの端末を持って買い物をすることで、時間を節約するショッピング。(店内に販売員はほとんどいない)。
店側は、消費行動の細かな情報を得られます。例えば、A商品とB商品を手に取って比べ、最終的にA商品を選んだという周辺情報まで得られるのかもしれません。

さて、マンハッタンの、ある大型小売店の壁面に彼らの考え方が書かれていました。

1.消費者がいつも正しいとは限りません。
2.販売する立場の私たちがいつも正しいとは限りません。
3.両者の違いを通じて、調和を創造することができるのです。

「買う側」と「売る側」という、相反する立場の「調和」。
どちらか一方が決定的に強い、あるいは一方通行というアンバランスな関係を避け、互いの立場を理解しようとする努力の継続によって、本当の信頼と調和が生まれるのだと彼らは考えているのでしょう。

21世紀の先進国の市場はそこに向かうのではないだろうか....ひいては、成熟した市場とはそういうものかもしれないと思うのです。


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