どうなる日本の食糧

今年の12月の富士山は、雪の積もり具合が少ないようです。
富士山の優美で力強さを感じさせる姿は、どの季節にも見とれてしまいます。
一度、静岡市から、富士山の西側を車で周りながら富士吉田市の吉田うどんを食べにいったことがありますが、道中、見る位置によって富士山の顔つきが変わっていくことに、ちょっとした感動を覚えましたね。

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さて、11月には7ドルあたりで推移していた小麦の国際価格が、やはりと言いますか、再び上昇傾向になり、指標となるシカゴ商品取引所での価格が12月17日時点で、1ブッシェル(=小麦:27.215kg) 9.66ドルと、過去最高値を更新しました。17日の取引中に、10ドルを越える瞬間もあったようです。

今年の1月に比べて、12月17日時点で、小麦の国際相場はちょうど2倍に上昇したことになります。特に、今年の7月以降の上昇カーブは異常なほどです。
加えて、世界のフレート(海上運賃:2万t級)も、今年の8月以降 急上昇しています。理由は、中国・インド等における石炭・鉄鋼など原料需要の活発化や、原油相場の高騰が要因です。

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以前、このコーナーでも書きましたが、今は「穀物の概念が変わってしまった時代」、あるいは「穀物需給の構造変化が始まった時代」とも言えるでしょう。今年2007年は将来、その元年と言われるかもしれません。

ただ、日本は国策として麦類の国家貿易という制度があり、今年4月から施行した「輸入小麦の売渡価格変動制度」によって、輸入小麦価格の変動幅はこの10月から±10% 以内(4月時点では±5%でしたが、10月に±10%に拡大されました)に制限されているため 、国際相場がどんなに上がっても国内販売価格の値上幅は前回改定額の10%までで、それ以上は国が負担することになります。 同様に価格が下落した場合には、下げ幅はマイナス10%までで、それ以下は国が徴収します。

この制度のため、日本ではまだ他国ほどには、小麦粉や、小麦粉加工食品の値上げが起きておらず、消費者の方々には、小麦に限ってみれば、穀物相場の異常な高騰を他国ほどには感じられない状況にあるのかもしれません。 これは、日本の小麦加工関連産業や流通産業ができるだけ価格を上げない方向に努力していることも、寄与しているでしょう。

問題は、高騰を続ける小麦相場、あるいは価格上昇が落ち着いたとしても高止まりの可能性が大きい予想の中で、いつまでその抑制努力が続けられるのかということです。 端的に言えば、国際相場のコストアップを誰が、どのように吸収するのか。

資源と食糧に乏しい輸入国 日本が、世界の市場動向の流れに逆らって、いつまでも末端商品価格をあげないでいることを、長く続けることはできないでしょう。無理やりに押さえ込むことは、やがて日本経済の内部に大きな歪(ひずみ)を作ることになりかねません。

来年4月の小麦価格改定額は、現時点で相当な値上げ幅となる計算になっています。平成19年11月現在で、オーストラリア産小麦で、10月時の値上後価格に対して、計算上、既にかなりの価格上昇となっていることに対して、前述の±10%という現行の値幅制限がどのように拡大されるのか、あるいはそのまま維持するのかが、現在 最大の焦点となっています。

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日本の小麦関連産業・農業のあるべき姿を議論する中で、「食糧は、自動車やコンピュータと同じように自由主義経済の論理のみでは扱うことはできない」という意見があります。年々の環境状況に大きく影響される農産業の特殊性や、食糧安全保障(“食”は国の基本である)という考え方からです。

そして、自由主義経済の論理だけでは食糧問題は片付けられない一方、農産業や製粉産業の効率が悪すぎ、世界市場での競争力が低過ぎては産業として成り立ちません。効率の悪さ=コスト増の負担を国に求めることは、21世紀の現代ではもうできないのです。

一方、「“食”分野は自由化すれば良い。それは、産業にとって最高の効率化につながる。自由競争ありき。それは、消費者の利益に資する。安いものが豊富に得ることができるからだ。日本は穀物輸出国から穀物を高値で買う力があり、望む量を買えるのだから、”食”の自由化を進めればよい」....... という意見は、今まで強かったのです。この自由主義経済寄りの意見は、近年グローバル経済の重要性が言われる中、食糧分野の議論においても強い説得力があるように聞こえたのは確かです。

しかし、皮肉なことにそのグローバル経済が進展する中、中国やインドがWTO(世界貿易機関)に参加し、膨大な数の消費者が同一の市場に入り、経済成長を遂げだした時、穀物市場の構造変化が始まった。極端な表現ですが、国家間あるいは工業vs農業間の「水の争奪戦」が始まったという見方もあります。

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世界の小麦生産地の一部での干ばつによる生産量低下。 投機的売買による穀物相場の高騰。 そして、世界的な穀物需要の増大。

日本が最高値を付けて、必要な量の穀物を海外で買い付けることができた時代は、もう過ぎ去ろうとしているのではないでしょうか。 たとえば、日本の提示価格より、さらに高い値をつけて穀物を買い付ける新興国が現れたら? 大量の穀物を、一挙に数年間分の契約買いする国が出てきたら? ……今後、穀物分野で「買い負ける」という言葉を、よく耳にするようになるかもしれません。

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さて、 ※ 穀物価格上昇分や日本への海上輸送コストアップを、誰がどう吸収する、或いは負担するのか。

※ 日本人の主食である小麦の必要量を、国内生産と輸入小麦を合わせて中・長期的にどう確保していくのか。

※ 単純に国内産小麦の生産量を増やしていくのではなく、いかに品質(小麦品種の優位性と品質安定)を向上させ、生産効率を上げコストを下げていくか。つまり、産業としていかに競争力をつけていくか。

※ 現在の輸入量が不足した場合、他のどの国から、どのように「品質」と「安全性」と「必要量」を確保するか。

これらの答えを、国も、農業生産者も、製粉業界も、私たち吉原食糧も一企業として考え、見出していかねばなりません。 いよいよ、新たな”食糧時代”に入ったと痛感しています。

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ところで、地方自治体はそれぞれ「“穀物(土地利用型の作物)”の「地域の自給」の考え方も含めた供給力の強化」について検討を始める時代に入ったのではないのでしょうか。10年、20年後に向けて。

この秋、過剰作付けからコメ価格が10%下がったこと等をうけて、12月には急きょ07年度補正予算に799億円が決まりました。又、この2007年4月に始まったばかりの「品目横断的経営安定対策」で作付面積(経営規模)用件を定めて補助金制度を限定した新制度が、1年を待たずに、早くも制度変更されることになり、「市町村が認めた場合は、作付面積の条件を満たさなくても補助金制度の対象になる」ことになりました。 この制度変更は、うまく使えば、地方の自立した供給力の強化につがるでしょうし、間違えばいわゆるバラまきになってしまいます。 大事なことは、一時的な対処だけでなく、長期的に日本の農業を強くするための政策を持続させることでしょう。

地方自治体は、将来の世界の穀物情勢のシナリオを想定して、土地利用型のコメ・麦・大豆などの作物全体の確保に向けて、自立した「地方の食糧供給力の強化」を早急に確立する必要があるのではないでしょうか。「国民の食糧の確保は、国の仕事だから全ておまかせ」ということでは難しい時代が近くやってくる可能性がないとは言えません。

農産業の分野で、国と地方の機能と役割を分担して、土地利用型の作物の ※ 適正な生産量の維持 ※ 生産性の向上=産業としての競争力強化 のメカニズム作りが本当に急務です。

主体となるのは、農業生産者の方たち。需給調整をどのようにバランスをとるのか、収益性をどう保つのか。大きな課題に向けて、今後も試行錯誤は続くでしょう。 でも、あまり時間は残されていません。

日本人の食糧の供給を、地方の足元から考える時代になってきている....そういうことではないでしょうか。世界の多くの国では、当たり前のことなのでしょうが。

しかし、同じようなことは過去に起きています。昭和48年には小麦の自給率は約8%にまで落ちこみ、小麦の生産量は20万2,000tに激減してしまった頃。いわゆる「麦の安楽死」と言われた頃のことです。

その頃、昭和47年のソ連(当時)の穀物大量買付けにより、穀物の国際価格が高騰し、世界の穀物事情は一転してひっ迫する事態が生じたこともあり、昭和49年以降、積極的な麦生産振興対策(米作からの転作奨励金や麦作付奨励金など)がとられ、昭和53年以降 作付面積は増加傾向に転じました。 しかし、その後 小麦の生産効率が大幅に向上することはなかった。

その後、30年経ってまた同じような場面に直面しているのです。


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