「徳島文理大学公開講座」に掲載されました
TPPと日本の農業について、キャノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹の講演内容(第2講座)が出版されました。
講演後 当社 吉原良一がパネリストとして質問やディスカッションを行った内容が「鼎談」として掲載されています。
(徳島文理大学長 桐野 豊:編集、かんき出版)
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【穀物分野の多国間交渉について】
TPP交渉(参加)の是非に関する議論は、前政権の突然のTPP参加検討表明から、はや1年半経ちますが、今も続いています。多国間交渉は、複数国の明確な利害がぶつかりあうため、全体としての成立が難しいことは、世界貿易機関(WTO)~ドーハ・ラウンド~が11年かかっても全体の調整がつかないことを見ても明らかです。
特に農産業は、国民の生活・生命に直結する産業であることから、政治的にも非常にセンシティブ(微妙、敏感)な存在です。小麦・コメ・大豆・砂糖・乳製品などの品目毎に、売りたい国と買いたくない国の立場が逆になったりする交渉は、よほど特殊な利害一致がないと難しいのは容易に想像がつきます。
「アラブの春」と呼ばれる、国の政権をも倒した激しい人民の行動は、当時、高騰した穀物相場による食品価格の高騰や供給不足もひとつの要因であったと言われています。人間の主食である穀物は、車や半導体とはまた違う、国にとっての「価値」と「意味」を持っています。
【日本の食料需給の特殊性】
さて、日本は食料生産と海外からの取得において、世界的に見て特殊な国です。島国に1億2000万人が生きる一方、狭い国土で作られる穀物や乳製品、畜肉には限りがあるため、自給率は当然低くなります。
例えば、小麦は現在で、約15%程度の自給率、戦後最大の小麦生産量だった昭和36年でも収穫量は178万トンで、現在の日本の生産量のほぼ2倍。それでも自給率は41%程度(吉原食糧 調査・集計)にすぎません。
コメを多く食べ、まだパン食は少なかった昭和30年代半ばで40%程度の自給率ですから、減少が続く作付面積と、パン・菓子・麺の消費量が増え、しかも総じて国内産小麦に比べ輸入小麦の品質が消費者から強く好まれている現在の市場環境では、小麦の自給率を上げることは、限りなく難しいのです。
又、日本は輸入小麦の品質・安全性・需給の管理を「国家貿易」として国が行っています。そこには「国内産小麦で不足する量を輸入する」という基本的な考え方があります。
一方、生産者側には高齢化、農業就業人口の長期に渡る減少、農業用地の固定化(基本的に農地の所有者と耕作者が一致する必要がある農地法)等に課題があります。
これらの日本固有の歴史的背景を持つ事情や特殊性は、自由主義経済を前提とする農産物輸出国(先進国)からは、理解がなかなか難しいものです。
私は、そのあたりを踏まえた上で、農産品(本稿は小麦”)の自由化や貿易交渉を論じる必要があるという考えを持って、今回のディスカッションに参加しました。