うどんの話

うどん生地は、「塩水」と「小麦粉」の出会いから始まります。この最も大事な出発点で何が起きているかを知ることは、うどん作りにとても大事なことです。

私は昔、年配の手打ち職人の方から、「手合わせ(水回し)でうどんの良し悪しは決まる」と何度も聞きました。
私は小麦粉の製造・開発に携わり、小麦粉開発とうどん生地について試行錯誤するうちに、その意味と理由が理解できたような気が少ししています。小麦粉と水の出会い、そして生地の鍛えと熟成時間によるうどん生地の変化は、大変奥が深いものです。

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うどん作りは、塩水を小麦粉に加えることから始まります。加水された塩水は、小麦粉の粒子の中に均一に素早く行き渡ることが必要です。

「水和」とは、小麦粉の粒子に水が行き渡って浸透することを言います。

小麦粉に水を加えて練ると「グルテン」という粘土状の物質ができて、これが麺の骨格を形づくることは前回(うどん作りの"極意"ポイント 「水和」とは)書きましたが、加水した瞬間からグルテンは形成され始めますから、水の添加が場所によってかなりの過不足があれば、グルテン形成が小麦粉のあちこちで起き、つまり生地に「むら」ができてしまいます。

ですから、小麦粉全体に水を散らすようなイメージで、小麦粉への沁み込み具合を見ながら連続して加水し終えるということがポイントです。加水の半分を注水して、2〜3分待って残りを入れるというやり方はお薦めできません。


【ピンミキサー】


例えば、小麦粉を大量に練るミキサーには、シャワーのように注水する天板が付いているのもあります。

手でミキサー内に加水する時は、できるだけ内壁に沿ってミキサー内部を縁取る(ふちどる)ような感じで、手を移動しながら垂らしていくといいでしょう。ピンミキサー(棒型)の場合は特に、真ん中のシャフト辺りに加水したのでは、ミキサー中央部に水が溜まるばかりで全体に広がりません。


【内壁に沿ってミキサー内部を縁取る(ふちどる)ような感じで、手を移動しながら垂らしていく】


手打ちでは、手指を使ってすばやく塩水を小麦粉中に散らせるイメージで鉢の中でかき回します。まさに、素早く!です。手打ちの名人は、この時の感触でうどんの出来・不出来が決まるといいます。理由は、先述したように小麦粉は水と触れた瞬間からグルテンを形成し始めるからです。小麦粉全体で均質にグルテン形成が進むようにすること。 これが、うどん作りの最初にして最重要なポイントの一つなのです。

ミキサーには、ミキシング羽根の形態や構造によって、大別して2種類のタイプがあります。上記ピンミキサー(写真)は「高速でピンを回して、短時間で水を小麦粉全体に行き渡らせる」という働きから「水和」の概念に基づいたものと言えます。 ミキシング後、足踏みやプレス工程に入りますが、その工程の前に熟成時間を取る(生地を休ませる)と生地に、より適度な弾力性が付きます。(後述)


ピンミキサー以外に、ミキサーの羽がフック状で、パンミキサーのように生地を練りこむニーダーと呼ばれるミキサーがあります。(やや低速回転で使用)。この方式は小麦粉に水を浸透させながら、同時に練り込んでグルテンを生成するという働きを持ち、より短い時間で生地作りが進みます。  
上記2タイプのどちらを選択するかは、うどんを作る人の考え方、製麺工程の設計思想によります。  

グルテンが形成された生地内部の様子は以下のようになっています。



白くネバネバ状に見えるものがグルテンで、球形がでん粉粒子です。
このように、生地の骨格を成すグルテンの間に、でん粉粒が抱きかかえられているようなイメージです。
麺を茹でると、このでん粉粒が92℃近辺で約5.5倍に膨潤(膨らむ)し、うどんのなめらかで、もちもちとした食感を作ります。

グルテンは不思議なことに、そぼろ状になった生地に軽く力を加えてまとめておくだけで、自然に結合が進み「かたまり」になろうとします。つまり自然に結合展開しているのです。
この「自然に進むグルテンの結合展開」を、製麺工程の中で上手く利用するのが手打ち、製麺の大事なポイントの一つです。


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