うどんの話

うどんの生地のべたつき等にも関係のある「小麦粉の吸水率」について、みてみましょう。

吸水量とは、文字通り小麦粉が吸収する水の量のこと。
吸水量に影響する要素は
(1) グルテン量
(2) 小麦粉の水分
(3) 損傷でん粉
(4) ペントザン(繊維質)        があります。

(1)グルテン量

 この中で、最も吸水量に大きな影響を与えるのが(1)のグルテン量です。 上の小麦の断面図で、「胚乳部」が小麦粉になります。 小麦粉にはグルテニン、グリアジンという水に溶けないタンパク質があります。同じ粉でもそば粉や米粉と違うところは、ここなのです。水を加えて混ぜ合わせると、グルテニンとグリアジンが絡み合う形でグルテンという物質が生まれます。粉が、粘土状の立体物質(網目構造を持つ)に変化するのです。 これが、麺やパンの骨格になるんですね。


(財)製粉振興会の書籍より


小麦粉に水を加え、よく揉んだ後、水洗いし、でん粉を流すとこのようにグルテンが残ります。これが、麺やパンの骨格になります。

吸水量の増減は、小麦粉中のタンパク質の量の増減と同じ傾向になります。
例えば、パン用の強力小麦粉は、タンパク量が多いので吸水量は多く(= 水を入れて練ってできるグルテン重量は大きい)、タンパク量の少ない国内産小麦の吸水量は少なく(= グルテン重量は小さい)、うどん用の中力小麦粉(オーストラリア産小麦:ASW)はその中間程度ということになります。

同じASW原料のうどん用小麦粉でも、等級や製粉の仕方によっても吸水率は違ってきます。


(2)小麦粉の水分


 通常 小麦粉の水分の規格は、おおよそ14%±0.5%程度(最大で0.5%の範囲内におさめることを規格とするという意味)で、そう大きくぶれることは少なく、通常の小麦粉製品であれば、吸水率との関連性を気にするほどではないと思います。

理論上では、小麦粉水分1%の違いは、吸水量を1.8%増減することになりますが、小麦粉製品で水分が1%上下することはまずありません。
うどんの生地の場合、それよりも生地温度や気温、塩濃度によって生地の硬さは大きく変わるので、現実問題としてこの状況をよく勘案して加水量を調整することになります。


(3)損傷デンプン

 損傷でん粉は、読んで名のごとく、傷んだでん粉粒のことです。電子顕微鏡で見ると、損傷でん粉はヒビが入っていたり、割れかけていたりします。つまり、製粉工程の粉砕や打撃によってでん粉粒が傷んでいるのです。
この割れ目や裂け目から水が入り込み、見かけ上 吸水が増えたようになるのです。

この損傷でん粉は、小麦粉中 数%程度含まれていて(一般にパン用強力粉の方が量が多い)、300%程度の吸水力(自分の乾燥重量の3倍)あるという報告もあり、吸水量への影響は大きいとされていますが、一般的な製粉工程で作られる小麦粉製品内の損傷でん粉はほぼ一定していると考えられます。うどん作りにおいては損傷でん粉について、通常、それほど重要視する必要性はないと思います。

(4)ペントザン

ペントザンは小麦の皮部の繊維の一種で、水に溶けるものと、溶けないものがあり、水に溶ける方のペントサンの吸水性が高いのです。ペントサン全体で胚乳部の3%程度、その内1%程度が吸水性の高いペントサンですが、その含有量も少なく吸水量への影響度は少ないです。

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これらを考え合わせると、同じ加水量、塩濃度でうどんを作っているのに、ある日突然小麦粉生地のべたつきが発生する場合は、何らかの要因で小麦粉中のグルテンを中心としたタンパク質の吸水量が少ないために水を吸収しきれず、生地が柔らかくなり、表面がべたつくというケースが考えられます。

次に、通常はない稀なケースですが、小麦粉水分が相当高い(例えば15%以上)可能性も考えられます。

また製粉加工して直ぐの小麦粉の場合、同一加水量でべたつきが発生するケースがあります。小麦粉の水分は、製造後3〜5日程度で安定化する旨の報告がされており、最低 製粉後5日程は置くのが良いでしょう。通常、製粉加工後、何日かは製粉工場で保管するので、その点はあまり気にする必要はないでしょう。

生地のべたつきが極端な場合には、まず加水量・塩濃度、生地や作業場の温度・湿度をよく確認したうえで、製粉会社に小麦粉製品の吸水率が低下していないかを、問い合わせてみましょう。


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