うどんの話

最近、ネット上で「うどんの風味」や「香り」、「旨味」などを語る向きがあります。しかし、これらを分析に基づいて、客観的に取り上げているものは少ないのが現状です。主観的な域をまだ出ていない、ということです。
確かに、「風味」は人によって感じ方が大きく違う、いたって主観的、感覚的なものです。たとえば、うどんの場合、通常の製粉方式で挽いた小麦粉(灰分値 0.35〜0.38%)でつくったうどんの「風味」を比較しても再現性がほとんどないのが現実です。
つまり、小麦粉(灰分値 0.35〜0.38%)AとBで作るうどんの風味を比べた時、ある時はAがより強く感じる、別な日にはB....というように評価が固定しないのです。

ただし、灰分値を高くしたり、挽き方(製粉)を変えると、かなり「風味」の強さが変わるのは確かです。これは、製粉の面白いところで、単純に灰分値を高くすると(小麦の胚乳部の外に近い部分の割合を増やす)ことでは、人が食べて美味しいと感じる「風味」にならず、いわゆるヌカ臭く(ふすま臭とも言う)なってしまいます。細かな製粉技術によって、好ましい「風味」を出すことは可能ですが、その小麦粉は前述のように、【灰分値 0.35〜0.38%】には収まりません。

話を戻して.....経験的に言えば、うどんの風味は、前述の【灰分値 0.35〜0.38%】レベルで作るうどんなら、小麦粉の違いより、熟成時間と塩濃度の違いによるほうが、はるかに大きな違いを感じさせます。
たとえば、「宵練り(前日に小麦粉生地を練っておいて一晩置く)」と、当日の朝に練って作るうどんの「口中の香り」は違いを感じる場合が多いです。これは、私たち開発者が実際にうどんテストを繰り返す中で経験的に得ていることでもあり、又 多くのうどん職人の方が言うことでもあります。

つまり、前述の灰分値レベルの小麦粉の場合、「粉の違いによる差」より、他の要素の影響が大きく、その「風味が強い/弱い」の判定は不確かな場合が多いということです。

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さて、一般的に「風味(flavour)」とは、「口の中で感じられる、香りと味の総合した感覚」です。
「このうどんには風味がある」という場合は、口の中でニオイと味を感じていることを言っていることになります。
又、たとえばうどん店の釜から匂い立つうどん独特に匂い(主にでん粉が茹でられる時の匂い)は、口の中で噛んで食べている時のニオイと全く同じではありません。
以下に詳しく説明します。

まず、匂いを感じる「嗅覚」。嗅覚は、揮発性のニオイ物質が鼻腔のニオイ受容体に作用することで感じます。つまり、気体中の物質を刺激として感じるのです。

次に、人間の鼻腔には実は、2つの出入り口があります。前鼻腔(鼻の穴)と後鼻腔です。普通、人間は鼻で匂いを嗅ぐ時は、前鼻腔から入ってくる外気と共にニオイ分子を受容体で感じています。

2つめの経路は......口の中で咀嚼(噛まれた)された食べ物の塊から放出されたニオイ分子が、後鼻腔(ノドの奥にある)を通り、鼻腔に逆流してニオイ受容体に作用して感じているのです。
つまり、口の中で食べ物と唾液が混ざったニオイを感じていることになります。

先ほど、うどんを茹でている時の釜の匂い(鼻の穴経由)と、口中のニオイが違うと言ったのはこのことです。茹でる時のうどんの匂いはとても良いものですが、かといって その匂いをよく感じるから、茹で上がったうどんも香りが強い、とは必ずしも言えないのです。

食べ物を噛んで食べている時に感じる香りは、口の中で唾液と混ざり反応してできたニオイが、口の奥から後鼻腔で感じ、そして、ここからは当社の推測(考え方)ですが、その口中のニオイは舌の上で感じている味覚と融合して、あるいは相乗して、いわゆる「風味(flavor)を人は感じていると考えます。

舌の上で感じている味覚も、「風味」には重要な要素です。一方で、「うどんの風味」は、「舌の味覚」だけでない、茹うどんの中の複数の要素によって作られています。
当社では、遊離アミノ酸を調べ、これと口中のニオイとの融合に関して推論を行う検査・研究を行いました。これが「旨味の小麦粉 香風」を開発するベースとなりました。

【"風味"に関する研究の結論(一部)】としては.....

1.小麦粉(灰分値 0.33〜0.38%程度)で打ったうどんの「風味」を比較しても、判別が不定となる(判別が
 安定しない)場合がほとんどである。
  「風味」の差を感じる場合はあるものの、同じ人でもその「判定の再現性」がない場合が多い。
  (=有意差を見出せない)
  (参考) 実際に茹うどんの遊離アミノ酸(味覚の元)は、人間が認識できるレベルよりはるかに少ない量
      しか含まれていません。

2.当社 開発の経験値として、「宵練り」と「朝練り」では風味は「朝練り」の方がより強く感じる場合が多い。
これは、「風味」が「味覚」だけでなく、口中の香りの影響を大きく受けている可能性を示すものと当社では
推論。
   
3.うどんに「旨味を感じる」と判定する場合に、茹うどんに残留する塩(味)が大きく影響する。

4.「"風味"が強い」という小麦粉は生産可能。
  ただし、特殊な製粉方式=「特殊な小麦の胚乳部の抽出方法」が必要。

※ 更に「うどんの"味"と"香り"」にご興味のある方は、書籍「だから、さぬきうどんは旨い(旭屋出版)」に詳しく記載していますので、ご参考までご紹介させて頂きます。

〜 第6章 うどんをもっと美味しくする、小麦粉とさぬきうどんの話 〜

   ● うどんの「味」と「香り」について  
        ・うどんの味覚の分析調査
        ・茹うどん、小麦粉の糖及び遊離アミノ酸分析結果  その他

   ● うどんの風味と咀嚼(そしゃく)の関係
        ・「風味」とは ..... その他


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