さぬきの夢情報

平成21年10月30日、香川県庁において、「さぬきの夢」推進プロジェクトチーム検討会が開かれました。【左から香育20号、21号、さぬきの夢2000】.jpg

この会で、さぬきの夢2000の次世代品種が、系統番号「香育21号」に決定しました。品種名の正式決定はまだですが、「さぬきの夢」という名称は残し、西暦が番号として付けられます。後に「さぬきの夢2009」という名前になりました。

現在の小麦品種の「さぬきの夢2000」の開発に至る最初の会議は、平成11年10月14日(「だから さぬきうどんは旨い」書籍 ~183頁~)でした。あれから、ちょうど10年!
時は流れ、「さぬきの夢2000」も進化を遂げました...

1.二者択一の経緯

最終残った候補は、A:「香育20号」とB:「香育21号」の2品種。

両者の特徴は、Aが「色は黄色が強く、食感はややかためで弾力性が強い。」
Bは「色はAほど黄色くないが明るい色相で、食感は"もちもち感"がやや強く、なめらか」というものでした。
今回、一般の試食者の評価で興味深かったのは、「なめらかさ」と「粘弾性(もちもち感)」で女性の年齢別評価で、ある特徴が顕著だったことです。

それは、30歳代~40歳代の女性が、それ以外の年代よりかなりの差で、粘弾性(もちもち感)が強いB「香育21号」を高く評価していた点(明確な差を認識していた)です(Aの約1.8倍の人がBを評価)。また世代間では、50歳代~60歳代に比べ30歳代~40歳代の女性の多くの人が「もちもち感」を高く評価しており、「"好み"の世代間ギャップ」を明確に示している結果が出ました。

「なめらかさ」も、30歳代~40歳代の女性が重要視している結果が出ています。

さぬきうどんの嗜好の変化が、これら食感・食味に敏感と言われる女性の30~40歳代の層に明確に出ているとも考えられる点がとても興味深いところです。

さて、今回の2品種、香育20号と21号の差は小麦粉の面からみると、明らかにその特性が違います。その品種特性の違いは、でん粉質の最高粘度(でん粉液を熱し、最も高くなった時の粘度の値)と、ブレークダウン数値ではっきりと読み取れます。
両社のたんぱく質、特にグルテン質と量の違い、それと裏腹に関係しているでん粉特性の違いから、うどんの食感としては基本的に方向性が異なる2種だったと言えるでしょう。そして、消費者を中心として、「なめらかさ」「粘弾性(もちもち感)の強さ」で香育21号が選ばれたということになると思います。2009と2000うどん.jpg

小麦品種を評価する時、小麦生産者は小麦の収量を重視し、製粉企業は歩留(小麦から採れる小麦粉の割合)の良さ、挽き易さ、手打ちうどん店は打ちやすさと美味しさ、製麺工場は、製麺適性(切れにくさ、生地のベタつきのない加工し易さなど)や色調・食感を重視しますので、ただ「美味しいか、否か?」だけでは決められないのも事実です。今回も、もちろん各立場のそれらの観点から、評価して議論されました。
私個人的には、まず「うどんが美味しい」と多数に評価されること(=現代の食感・食味に合っていること)、製麺適性(切れ麺が少なく、製麺し易いこと)が第一条件だと考えています。

2.この20年、日本で初めて ~品種名が引き継がれていく"小麦" 「さぬきの夢」~

さぬきの夢2000が品種登録を出願したのは、平成12年9月29日のこと。
後継品種「香育21号」の品種名は、「さぬきの夢」は残すことが決定しており、後に「さぬきの夢2009」になりました。
この20年で、品種名が引き継がれ、品種の改良が行われてその流れが続いていく国産小麦は日本で「さぬきの夢」が初めてでしょう。

「ブランド」の必要条件のひとつが「持続性」であるとしたら、「さぬきの夢」はその一歩を踏みだしたということができるかもしれません。また、現・さぬきの夢2000が、始祖として優秀な品種特性を持っていたとも言えるでしょう。
そしてこの10年間、行政と関連業界の熱意が持続してきて作り上げた結果とも言えるでしょう。


3.似非(えせ)オーストラリア産小麦ではない、独自性のある小麦でありたい

実は、さぬきの夢2000の開発の当初から、私が言い続けてきたことがあります。それは、「香川県産小麦は、似非(似て非なるもの)オーストラリア産小麦では生きていけない」ということ。
日本という小麦市場で35年を超える歴史を持つ、優秀なオーストラリア産小麦(ASW)の後を追うだけなら、いつまでたっても、「駄目だ、駄目だ」と言われ続けるのは明らかだからです。さぬきの夢2000が世に出る10年以上前の、ダイチノミノリ・セトコムギの時代から小麦粉を開発・生産してきた当社では、ASWの商品の小麦としての完成度の高さは痛いほどわかっています。ASWの後追いではかつての香川県産小麦ように、総くずれになってしまうことは目に見えるからです。
「品種特性として多少のマイナスがあるとしても、これだけはASWに負けない」という優れたうどん特性がないと香川県の小麦は生きていけないと思います。

ただし、それは、うどんの食感・食味の特性の話であり、うどんの製麺適性(打ちやすさ=ASWに近い適度なグルテン量と弾力の強さ)は、できるだけASWに近づける必要があります。昭和40年代初頭までのように、時間をかけて足踏み・手もみして、熟成時間を十分取るという製法のみに頼り切るわけにはいきません。もちろん、さぬきうどんの手打ちの技術は伝承されていくべきものですが、同時に製麺機械への適性、時間スケジュールによってうどん製造が行われる現実にも対応していくことが必要です。

言い換えると、2010年の日本のうどんの世界では、「打ちやすさ」は必須条件なのです。今、全国各地の小麦の品種間競争が起きています。その国内の競争の中で、「さぬきの夢」が常にハイレベルの小麦であり続けるためには、この「製麺適性」は必須条件です。
21世紀中盤に向けて、香川県産小麦が目指すべきゴールのひとつがここにあります。【香育20号、21号、さぬきの夢2000】.jpg

4.飛躍的な製麺適性の改良を実現 = 香育21号

今回の香育20号も21号も、グルテン質・量ともに飛躍的に改良されました。ASWにどれだけ肉薄するかは、今から現場で明らかになっていきますが、相当なレベルに達しており、この特性は今後の「さぬきの夢」の大きな力になることでしょう。私は、今回の香育21号(現:さぬきの夢2009)は、「飛躍的な製麺適性の改良」が達成されたと感じています。

5.実は、2者択一では終わらない

今回の会議では、それぞれに優れた2品種の内のひとつを選びました。
しかし、選ばれなかった香育20号が消え去るということではないと思います。先述の、たんぱく質・でん粉特性の大きく異なる2品種はそれぞれに優れた点を持っています。

まだまだ続く次の「さぬきの夢」の目標は、香育20号系統のたんぱく質(グルテン質)の弾力性の強さを、香育21号(現:さぬきの夢2009)のでん粉特性を持つ品種の中にうまく入れ込んでいくことではないかと思っています。このたんぱく質とでん粉質の「二律背反」をどう融合するのか。

今回、飛躍的に改善されたグルテン質の弾力性の強さを更に改良し、優れた製麺適性(うどんの打ちやすさ)を実現し、なおかつASWにはない「粘弾性(もちもち感)」「なめらかさ」を持たせる。いわば、打ちやすさという現実性と、食感・食味の品位のさらなる向上、これが、「さぬきの夢」の目指すひとつのゴールだと思うのです。
「さぬきの夢」の21世紀中期に向けた成長の旅は始まったばかりです。


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